人工知能の核心 (NHK出版新書 511)
- 作者: 羽生善治,NHKスペシャル取材班
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/03/08
- メディア: 新書
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☆☆☆☆
- なぜ読んだのか
羽生さんの人工知能の認識に興味があり読了.実は期待していなかったが, TensorFlow, Torch, Chainer (p.179)や,D-Wave(p.173)にも言及していて驚いた. 「Recurrent Neural Network」(p.144)等も理解されているようだ. 一方で,おわりに『攻殻機動隊』(p.229-231)にも触れていた.
羽生さんの整頓された整頓された思考から「エンジニアであった父」(『捨てる力 (PHP文庫)』p.139)の存在を感じる.
ディープマインド社とCEOのハサビス氏,「AlphaGo」を理解するための貴重な資料でもある.
ディープマインド社CEOハサビス氏の言葉
「人間の知性をコンピュータで再現することは可能」(p.104)
「脳が行っている作業で人工知能が行えないものはないはず」(p.172)
「森羅万象を説明できる」(p.231)
- 何が書いてあったか
人工知能の日進月歩の開発速度を強く感じた.
この本の企画から,今までにあった出来事を少しまとめる.
2015年 | 本書の元となる,NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」番組制作開始 |
2016年2月 | 著者,取材班,ディープマインド社取材 |
2016年3月 | ディープマインド「AlphaGo」にイ・セドル氏敗北 |
2016年5月 | NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」放送 |
2017年3月 | 本書第一冊発行 |
2017年5月 | 第2期 電王戦 PONANZA に佐藤天彦名人敗北 |
2017年12月5日 | 羽生棋聖 永世七冠達成 |
2017年12月5日 | ディープマインド「AlphaZero」 最強将棋プログラムelmoとの100局において、90勝8敗 |
2017年12月5日に発表される,AlphaGoZero の汎用化を羽生さんはこの本の中で,読んでいるかのようだった.
「もし,アルファ碁の探索の設定が詳らかになれば、将棋やチェスにも応用できる可能性があるのかもしれないと、考えています。そして、それが何を意味しているのかというと、チェスや将棋や囲碁は、競技としては違うけれども思考のロジックには共通のプラットフォーム(基盤)があるかもしれない、という可能性です。異なったルールであっても、思考や論理的な考え方そのものには、突き詰めると、根本的なところで共通するものが存在する。もしそうなら、それは「知性」そのものの汎用性を考える契機にはならないでしょうか。」(p.34)
AlphaGoは二段階で手を絞る(p.58)
1. 次の手を絞る(Value Network)
2. 局面ごとに,何手先まで読むのがふさわしいか判断(ポリシーネットワーク)
棋士の手の絞り方の第一のプロセスである「直観」のイメージが
「カメラで写真を撮る際、ピントを合わせるように、「これこそが問題の中心だ」と思うところにフォーカスしていくイメージ」(p.66)
は,具体的でわかりやすい.(p.66)
ここでいう「直観」とは「経験や学習の集大成が瞬間的に現れたもの」あるいは「今,自分はどこにいてどの方向に進めばいいのか」を大まかにつかむ"羅針盤"のようなもの.これまでの歩みやストックしているデータによって裏づけられている(cf.p.66)
「大局観」を使い,一手一手を検討することからあえて離れ,序盤から終盤までの流れを総括し,先の戦略を考える(cf.p.68)
羽生さんは,棋士が手を選ぶ行為は,美意識を磨く行為とほとんど同じと考えていると言い,
「美意識」を磨くことが将棋の強さに関わると言う.(pp.75-76)
人生においても,手を選択するために,「美意識」を磨いていきたい.
しかし,人工知能が示すように,われわれが「美意識」のなかでは認識できていない他のところに,確度の高い選択肢がある可能性(cf.p.82)があることを忘れてはならず,同時に人間は人工知能の影響を受け,美意識を変えていくのだろう(cf.p.97)
人工知能は正解を出す確率を上昇させているだけで100%正確,絶対的ではない.
しかし,僕も人間は人工知能を「信じていってしまう」と予測している.(cf.p.197)
それは,占いや宗教の信奉に似ているかもしれない.
だが,羽生さんが言うように,人工知能の判断を「絶対である」と信じないこと(cf.p.200)「絶対である」ではないこと,を知っておくべきと考える.
- 何を学んだか
改めて「大局観」を理解できた.
人工知能の判断がブラックボックスであることが,やはり大きな問題だ.
人工知能は両刃の剣だ.どちらに転ぶかはわからない.(cf.p.231) しかし,開発を止めることは出来ないだろう.「できるところから開発する」(p.175)無邪気さは,人間存在の本来の姿ではないだろうか.
- どう活かすか
私達は常に手を指している,勝敗やルールの存在が不明確な人生ゲームにも「直観」「読み」「大局観」は活かせる.
評価値の値を知っておくことで,大胆な形の手を試すこともできるのでは(cf.p.207)という考え方は,とても生活に活かせそうだ.リスクを取りやすくなりそうだ.
- 問い
将棋は,自分の定番で,本来なら「何もしない」のが最適解である場面が多いゲームと羽生さんは言う.(pp.71-72)私達は勝敗やルールの存在が不明確な人生ゲームで常に手を指しているが,人生において「何もしない」手の評価値はどのくらいか?僕は,とても高得点な気がしている.
将棋が強くなるために1番大事なことは,だめな手が瞬時にわかること(cf.p.73)だとして,では, 人生における,最善手と次善手の差はどのくらいか?囲碁の様に差が少ないのか,将棋の様に大きいのか?
人工知能には人間以上の倫理が必要になるだろう(cf.p.123)しかし,人間は「人間以上の倫理」を規定可能か?