book review

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夕凪の街 桜の国

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

☆☆☆☆

『夕凪の街』の舞台は,昭和30年(1955年)の広島市
『桜の国(一)』の舞台は,昭和62年(1987年)の東京都中野区
『桜の国(二)』の舞台は,平成16年(2004年)の東京都西東京市,中野区,広島市

『夕凪の街』

 原爆投下から10年,被爆者の皆実がわかっているのは『死ねばいい』と誰かに思われたこと,しかし生き延びていることであり, 自分が『死ねばいい』と思われても仕方のない人間になったと気づくことが怖いと言う.(p.16)
10年前の8月を内省する皆実の,この世にいてもいいのかという問いに,打越は,生きていてくれてありがとうと答え,皆実の生は肯定される.(p.28)
自らを死なずにすんだ人と認識していた皆実だったが,死を悟り,自分の死を喜んでくれている人がいるか問う.(p.33)
打越氏から生を肯定された皆実には,死を喜んでくれる人がいなければ,死ぬ事はとても辛いのだ.

『桜の国』

 旭は姉の皆実の五十回忌を期に,昔話を聞きに広島に行く.
会っている人々は,『夕凪の街』で皆実のお見舞いに来てくれた人,ワンピースを一緒に作った古田,打越だろう.
旭と打越が食べているものは,皆実が打越に同じ場所でご馳走した特産の珍しい野菜の料理なのだろう.

 凪生は赤ん坊の時の被害にあった被爆者の母,京香の影響からか,以前患っていた喘息を理由に,東子との交際を東子の両親から禁止される.
凪生は東子に,二人とも,お互いの家族から大切にされて生きてきたのだから,東子の両親を裏切ったり,悲しませる権利があるとは思えないと,伝えた事を七海は知る.
自らも被爆者で,夫と3人の娘を原爆の被害で失ったフジミも,東子の両親と同じく,息子の旭に,被爆者の京香と結婚する気か?と問い,もう知った人が原爆で死ぬのは見たくない,と言う.
旭と結婚した京香はフジミより早く亡くなっている.
 七海は,凪生も自分もいつ原爆のせいで死んでもおかしくない人間とか決めつけられたりしているのか,と問う.

  • 何を学んだか
     原爆投下から60年[2004年発行]経ても被爆者への差別がいまだに根強く残っている.

  • どう活かすか
     2017年の今でも,被爆者,被爆二世への差別はあるだろう.2011年の3.11以降は東北への差別もある.風化すれば,差別は無くなるかもしれない.しかし,人類が同じ過ちを繰り返さないためにも『忘れてしまえばすんでしまう事』(p.26)ではなく,語り継ぎ,乗り越えることは義務ではないだろうか.この話を終わらせるために,まだこの話を終わらせてはならないと考える.

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